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12 真空管の挿し替え

挿し替えの方法

真空管アンプ特有の楽しみ方に、真空管をあれこれ挿し替えるというのがある。同じ型名だが製造元が違う真空管を挿し替えて、どこどこ製の音はどうで、どこどこ製の球の音はああで、と、オーディオでもギターアンプでもけっこう広くやられている。トランジスタやICなど半導体はだいたい基板にじかにハンダ付けされたりしているので、手軽に挿し替えるのは無理で、これは真空管ならではの楽しみ方と言えるだろう。

さて、真空管を挿し替えてもいい条件だが、以下をすべて満たしている必要がある。

  1. ピンアサインが同一
  2. ヒーターの電圧が同一
  3. ヒーターの電流が元の球の電流と同じかそれ以下
  4. プレートにかかる電圧、流れる電流が球の最大定格を超えない
  5. プレート損失およびスクリーングリッド損失を超えない

(1)は当然。これが異なると最悪、一瞬で真空管が壊れる。 (2)も当然。許容できる電圧の違いは最大でも1割程度である。(3)は、実際にはヒータートランスの電流容量がどれぐらいかに依存する。トランスの電流容量が許すなら、電流値は元の真空管の電流を超えても大丈夫である。(4)は、プリ管の場合、オーソドックスな無理のない設計をしている回路ならだいたい大丈夫だが、パワー管の場合はそうも行かない。いずれにせよ、きちんとチェックが必要。(5)は主にパワー管での話で、プレートにかかる電圧と流れる電流を掛け算したW数(プレート損失という)が定格を超えないこと。そして、スクリーングリッドについても同じく計算し、定格を超えないこと、ということである(厳密にはAB級の場合さらに事情は複雑で、興味のある人は設計編のこちらを参照)

以上の5項目はすべて、挿し替えても真空管が壊れないという条件である。しかし、壊れなくとも、挿し替えることで特性が変わる、時によってははなはだしく変わる、ということは当然起こるわけで、これまた当然、それに伴い音は変わるわけである。挿し替えて音の違いを云々するのは、そういう事情なわけだ。

それはともかく、以上5項目を満たしているとして、挿し替えのタイプは次のようになる。

  1. まったく同じ型名で、製造元が違う球
  2. 型名は同じだが、最後の添え字の異なる球
  3. 型名は異なるが、互換性のある球
  4. 型名が異なり、完全互換性も無いが、挿し替えて大丈夫な球

(a)が一番広くやられている挿し替えである。回路の知識も、真空管の電気的特性の知識も、電気工作の知識もなくても、簡単に安全にできるからであろう。例えば、パワー管の6V6GTだとしても、真空管ショップを調べると、SovtekTung-solJJRCAGEなどなどたくさん出回っているのが分かる。ロシア製、中国製などのように現在製造しているものもあれば、製造中止でストックのみの希少なもの、中古、などいろいろである。一般に、現在製造中のものは値段がリーズナブルで、ストックものは高い。特に名高い、たとえばWE (Western Electric)の球など骨董品扱いになっているものもある。余談だが、真空管オーディオアンプのパワー管でもっとも名高い300BというST直熱三極管があるが、これのウェスターン・エレクトリック製のNew Old Stock(NOS:古くに製造され一度も使われずにストックされていた品)など、2本のペアで桐箱に入って30万円とかで売られていたりする。ついでに余談だが、なんとこの300Bはいま現在、日本でも復刻版が製造されていたりする。高槻電器工業という会社が、受注生産で一本一本手作りしている。興味があったら調べてみるとよい。

次に(b)だが、これはたとえば12AX7なら、12AX7A12AX7B12AX7WA12AX7EHなど、最後にアルファベットの添え字がついたタイプである。これらは12AX7のバリエーションなので交換しても何の問題もない。その特性は基本的には大きく変わらないが、ものによっては特性がかなり異なっていて、動作点などはいくらか変わることがある。ということは、音もわりと変わる可能性があるということだ。

(c)はいわゆる「互換球」というやつで、データシートを見るとその旨が載っていることがある。名前は違うけれど特性が同じ、またはだいたい同じで、そのまま挿し替えても問題が無いことが保証されている真空管のことである。たとえば12AX7だと、7025668112DT7とかいろいろある。あと、真空管の型名にはアメリカ式とヨーロッパ式があって、まったく同じ球を違う名前で呼んでいる。たとえば、12AX7はアメリカ式の名前で、同じ球をヨーロッパ式ではECC83と呼ぶ。慣れてくると覚えるものだが、最初は戸惑う。よけいなことだが、自分はヨーロッパ式命名が好きじゃなく(カッコよくないから)、真空管はいつもアメリカ名で呼んでいる。だから、本サイトでもそうしている。

(d)は、前にあげた挿し替え可能な5項目を満たしているけど型名が異なり、さらに電気的特性も異なる球である。この場合は、挿し替えても壊れはしないものの、指定の球と特性が異なるので、当然、元のアンプの設計の意図と違った動作点になる。音が悪くなる時もあるし(歪んでしまうとか)、望みの音になることもある。たとえば、プリ管の12AX7のところに、12AT712AY712AU7を挿し替えたり(それぞれ増幅率が異なる)、パワー管の6V6GTのところに6K6GTを挿し替えたり(最大出力が異なる)することである。あるいは、プレート損失などの定格を分かった上で、6V6GTのところに6L6GCを挿したり、KT66のところにKT88を挿したりすることもある。ただし、特にパワー管のこの手の挿し替えは、ヒーター電流、トランス容量、バイアス再設定などいろいろ考えておかないとトラブルになる。したがって、この手のは、回路動作を分かった上でやることをお勧めする。


挿し替え事情など

以上が真空管挿し替えについてだが、具体的な挿し替えについての詳細はここでは省略する。そうした情報はインターネット上にたくさんあるので、そちらを参照して頂きたい。海外の英語のサイトまで含めるとかなりの量の情報が出回っている(英語ではTube Rollingというらしい)。で、これら球の挿し替えによる音の違いだが、その手の情報サイトに、まともなものから怪しげなものまでたくさん記述が見つかるので、まずはのぞいてみてはいかがだろうか。

ところで世の中で実際に行われている挿し替えは前述タイプ(a)の、製造元の違う球に替えることである。論理的には、球の特性はそれほど大きく変わらないので、音もあまり変わらないはずだが、ネットなどをあさってみると、国内外を問わず、この手の挿し替え事例が次から次へと出て来る。いわく「○○製は平板で個性の感じられない音だが、××製は一見やわらかく潤った印象だが、躍動感が感じられ、音にスピード感がある」などなどの記述である。こうはっきり言われると、自分も挿し替えてみたくなるのが人情というものだろう。それであれこれやってみて、あんまり変わんないや、となるか、ますますハマって行くかは、人それぞれである。

ここでは、球による音の違いについても言及しない。基本的には「まあ、実際にやってみてください」としか言いようがない。個人的には、音は変わると思うし、挿し替えはなかなか楽しい。経験談を言うと、ある日、秋葉原のジャンク屋で、汚い木箱の中に雑多な部品に交じって転がっていたGE(General Electric)の6V6GTを見つけた。底のガイドキーが折れていて屑同然だが300円だったんで買ってみた。家に持ち帰り、たまたまあった6V6GTシングルのChampに挿してあったSovtekのと挿し替えてみてビックリ。ゲインはいくらか落ちたが、歪みにとげとげしいところがなく、非常にクリーミーで、美しいと言って過言ではない音になったのだ。そんなこともあったが、もっとも、結局は自分は挿し替えにはハマらなかったが。